2018/09/08 00:00

Field Recordings Vol.5 

*「Field Recordings」は、下岡晃(アナログフィッシュ)が代表を務めた「m社」(現在活動休止中)で行っていたインタビューシリーズです。


「俺はこれが好きで好きでしょうがないんだ」っていうのとは違うよね。

そのわりには、すごく真面目にやっているっていう。


鈴木健悟(鈴木りんごカンパニー・園主)


聞き手・写真:下岡晃(Analogfish)   Text:倉持太郎 編集:岡本零



ハサミは持つけれど

できるだけ枝を切らずに育てる


下岡晃(以下A):りんごをつくりはじめて何年目になるの?

鈴木健悟(以下S):20歳からはじめて今年が年男だから、16年目かな。

A:独立してからは?

S:21歳で自分の農園を始めたから、14年くらい。

A:今年の収穫はどうだったのかな?

S:どちらかというと豊作で、昨年比110%〜120%の伸び率だった。でも、うちより標高が低い場所でつくっている農家さんはつらかったみたい。昨年の半分以下しか流通していないんじゃないか、って話もある。

A:クオリティ的にはどうだったの?

S:難しい年だったかも。11月20日くらいに雪が降ったせいで、根からじゃなくて、木の表面から水分が入っちゃって。痛みやすくなるし味が薄まっちゃう。雨が降る程度だったら、濡れるだけで影響ないんだけど。

A:16年やってきて、段々と自分が作りたいものが作れてきてる実感ってあるの?

S:そうですね。

A:始めた当初と、16年後の今で、何が一番変わってる?

S:濃い味のりんごができてきているかな。農業って、肌感覚で湿度があがってきたなとか、感覚的な部分が多い。そのなかでも「こういうりんごがいいな」っていうイメージがあって、そのイメージに合うように作業していくと、いいりんごになっていくというか。

A:僕は鈴木農園のりんごを食べたときに、おいしいなと思った。他のりんご園と何かが違うからだと思うんだけど、具体的にどの辺が他と違うと思う?

S:まず適地適作っていうのが第一だと思う。誰が作っても、適地で作ればある程度のものができる。何が適地かといえば、標高と土が、りんごに合っていること。あとは日当たりとか水分量とか雨量とかなんだけど。

A:僕はこの辺で生まれ育ったんだけど、りんごは子供の頃から食べてて、おいしかった記憶があるんだよね。でも大人になって東京で食べたりんごは、おいしいものばかりじゃなくて。それであらためて、こっちでりんごを食べてみると、この辺のりんごも全てがおいしいわけじゃなかった。だから、鈴木農園ではやってるけど、他でやってないこともあるんだろうなって。

S:違うところはあるね。例えば剪定(せんてい)。りんごの木の枝を切って、木から実に栄養がうまく行き渡るようにするんだけど、その切り方が違ったりする。

 専門的な話になっちゃうんだけど、収穫が終わった時期のりんごの木は、木と根のバランスが一緒の状態なのね。ここでたくさん枝を切ると、根にある余った養分が、どこかに浮き出る。だから大きいりんごを作ろうとする場合は、剪定で大きく切る。サイズを重視してそうしている農家が多いんだけど、でもそれだと味はおいしくならないんだよ。だから自分の場合はハサミは持つけど、できるだけ切らない。

A:それすごいシンパシー感じる。みんなギター持つと弾きたくなるんだよ。でも、できるだけ弾かないっていう(笑)。

S:バランスを考えながら、大きいけどおいしくないリンゴがなる部分を切ってあげて、小ぶりでも味が濃くなりそうな部分を残して増やす。今年の収穫のことだけじゃなくて、来年以降のことも考えて、あえて多めに切るときもあるしね。経験則だし、正解がないんだけど。


化学肥料を使うと

木と根のバランスが見えにくくなる


A:音楽やってて、キャリアが16年もあれば、レコーディングとかライブって星の数ほどあるし、結果もそこで見えるけど、農家は16年あれば16回しか収穫を経験しないわけだから、それって大変なことだよね。その中でご飯を食べていくから、めちゃくちゃ濃い経験なんだろうけど。それにしてもすごいことだなって。

S:確かに1回1回が濃密だよね。でも、1年間という長いスパンの中でやっているから、天候とかはあるにせよ、自分のミスで致命傷になることはほとんどないかな。

A:鈴木農園は低農薬で、土には特に何も入れないじゃん。健悟にもともとナチュラル志向があった感じはしないんだけど、なんでそういうりんごを作ろうとしたの?

S:剪定の話もそうなんだけど、大きいリンゴが作りたいからって化学肥料を使えば、肥料を使った翌年にすぐ大きいりんごができる。でも、化学肥料を入れると変化のテンポが早くなるから、その分ミスも起こりやすい。

A:化学肥料を入れた方がリスクが下がりそうな気がするけど、そうじゃないんだ。

S:普通の農家さんはそう思って化学肥料を使うんだけどね。でも、そうするとさっき剪定のときに話した木と根のバランスが見えにくくなる。自分の中で、この化学肥料を使ったら、根の割合がこれだけ大きくなるっていうのがあればいいかもしれないけど、それは分からないから。だから化学肥料を使うより、剪定で木と根のバランスを整えた方がいい。何も入れなくてもりんごはなるから。畑から出て行ったりんご分だけを、何かで補えばいいのかなと。

A:そうすると、長くやっているとりんごがとれなくなっていくような気もするけど。

S:うん。16年やってると、だんだんできなくなってきている感覚はある。でもそれを補うために、生えてくる草を刈って土に還すだけでも、大きな肥料になる。1年に1回だけりんごを収穫するくらいであれば、化学肥料は必要ないんじゃないかな。



最初の年は、半分以上のりんごを

畑の土にもどした。


A:話は変わるけど、実家は何やってたの?

S:両親とも公務員だった。

A:農家を継ぐわけではなく、しかも20代で、なんでりんご農家を始めようとしたの?

S:高校2年生くらいで、みんな大学を選び出すでしょ。でも大学でやりたいこともなかったし、そうなると勉強の意欲もわかなくて。で、何をやりたいか見極めるためにバイトしようと思って。ホームセンターとか色々やったんだけど、どれもピンとこなかった。その中にたまたま農家の知り合いがいて、農家でバイトしてみた。その時に「これだ!」って実感はなかったけど、ストレスも感じなくて。適切な作業をしたらいいりんごが採れるとか、自分がやった成果がきちんと還ってくるのがいいなって思った。

A:その時点でりんごが好きとか、そういうことじゃなかったんだよね。

S:うん、その時点ではなんとなく農家やってみようかなってくらい。お客さんに勧めて買ってもらうからには、自分がおいしいと思うものを勧めたいと思ったし、農家なら自分で作って、お客さんにも勧められるかなって。

A:1年目ってどんな感じだったの?

S:自分がイメージしていた、味の濃いりんごができなかった。最初からうまくいくとは思ってなかったけど、採れたりんごの半分以上を畑の土に戻してたら、おふくろに本気で心配された(笑)。

A:味が濃いりんごが作りたいって想いはどこからきたの?

S:単純に、味が濃いのが、おいしいりんごだって思ったから。農家同士でいいりんごについて話すときに、いいりんごの定義って人それぞれなんだよね。大きさとか色とかも含めて。そのなかで自分には、食べた時に味が濃いっていうのがあった。りんごの味には「酸味」と「甘み」と「こく」の3種類の要素があって、濃い味のりんごは3つの要素ぜんぶが強いんだと思う。だから濃い味のりんごがいいんじゃないかなって。

 化学肥料を入れたら濃い味のりんごになりそうなんだけど、そうじゃない。根のバランスが強すぎると、大きいだけで濃い味にならないんだよね。木と根のバランスが5:5の状態が一番いい。


ぐるっと円を描いているイメージは大事にしているかな。

その円のどこかに無理があれば続かないから。


A:りんごを作る仕事は、これが好きだ!って始めたんじゃないにしろ、性に合ってて好きなことじゃん。好きなことを続けるって、どういうことなんだと思う? 最初にそれがやりたいことではなかったけど、好きになっていったわけじゃん。それって段々好きになっていったの? それとも好きとか嫌いとか思わなかった?

S:始めた当初、畑仕事以外の周りのことでは、嫌なことが沢山あったと思うの。でも畑で仕事すること自体は、嫌じゃなかった。よく3Kって言われるけど、きついって思うこともなかったし、土に触ることが汚いことだとも思わないし。

A:好きなことを続ける秘訣って何かある?

S:循環していることかな。リンゴの木もそうだし、春に花が咲いて夏に葉っぱが茂って秋に収穫、雪が降る頃に紅葉で葉が落ちて、その葉っぱが養分になってまた春に花が咲くでしょ。そういう、ぐるっと円を描いているイメージは大事にしているかな。その円のどこかに無理があれば続かないから。確かに嫌なこともあるし、ちょっとくらいきついこともあるのかもだけど、最終的には丸くおさまっているような気がする。

A:好きなことで食っていくっていうのはどういうことなんだろうね?

S:食えているかどうかもわかんないけど(笑)。農家って生活と仕事の境目がないから、服を買っても作業着になるし、最終的にどれが経費になるとかグレーな部分もある。経営的にはしっかり線引きした方がいいかもだけど、お腹がすいたからって自分のりんごを食べても、それを経費にするわけじゃないし。今の収入で都会で暮らせと言われたら、収入的には厳しいとは思うけど。でも、今は例えばお金なくてお腹すいたなって思ったら、畑を耕して種を植えておけば、1週間くらいで何か生えてくるからね。

A:なるほど。好きか嫌いかというより、単に性に合ってるんだ。これだったら自分がやっていけるって仕事なんだね。それって最高だよね。

S:俺はこれが好きで好きでしょうがないんだ、どんなつらいことがあってもこれをやってやるんだ、っていうのとは違うよね。そのわりにはすごい真面目にやっているっていう(笑)。




A:年々畑を広げるでしょ。で、りんごを作る場所を変えると、違うりんごになるの?

S:うん。違うりんごができる。

A:作りはじめてどれくらいの期間で、自分のりんごになるの?

S:3年かな。

A:結構かかるね。でもそれくらいで自分のりんごになるんだね。鈴木くんのりんごって、鈴木くんの味だなって思ってたけど、りんごの味を引き出そうとすると、みんなこういう味になるのかな。

S:そうだね。でも、できるだけ何もしない方がいいんだと思う。

A:ところで、スーパーで見るりんごってサイズは違っても、みんな絵に描いたようなりんごの形をしている。そうじゃないりんごもあると思うんだけど、そういうりんごって加工品とかになってるのかな。何の問題もないし、そういうりんごも当たり前のように食べたいけどね。

S:うん。一方で、化学肥料がしっかり入っているりんごって、形も大きさも揃うんだよね。

A:逆にいうと、イレギュラーな形って安心の証拠かもね。

S:大きさだけでいうと、うちのりんごは色々できるよ。


自分が求めているりんごには、

たまたま化学肥料が必要なかった


A:日本は人口が減ってて、お菓子とかジュースの加工品じゃなく、果物をそのまま食べる行為自体が、お年寄りのものになりつつあるかもしれないよね。ふだん果物を食べてない人にも食べてもらうための方策が必要かなとも思うんだけど、そういうのある?

S:うち子供がいるでしょ? 見てると、食についてハングリーさがない。モノがあふれているからそうなのか、焼肉だって言っても、動けなくなるほど食べるとかなくて。もう少し前の時代だったら、味は置いといて、お腹いっぱいになるまで食べたじゃん。そういう食への関心が、そもそも薄いような気がして。でも、少なくとも、食べているものがなんなのかはわかっていてほしいよね。方策とはちょっと違うかもしれないけど……。

A:食育とか、質のいい食みたいなことは、もっと陽の目を見ると思う。

S:自分としては、化学肥料を使うこと自体がNGではないんだよね。自分が求めているりんごには、たまたま必要なかったというだけで。昔の農家は手間をかけてピカピカのりんごを作るとお金になってたんだけど、今の時代はそうじゃないしね。

A:農薬をなるべく使わないってすごくシビアなことで、そのために取り高が減ったりとか、大変なことが多いのかなって思ってたけど、もっとおおらかなことなんだね。

S:そうだね。りんごそのものに任せるというか。できてくるものはばらつきがあるけどね。

A:形のばらつきよりも、味を見てほしいよね。

S:収穫しながら味見をするんだけど、すっごいうまいやつがたまにでてくる。そういうりんごで揃えていきたいなって。




はじめた頃に、商売がうまい先輩に

「りんごは売っちゃダメだ」って言われた


A:この先はどういうことをしていきたい?

S:去年、一昨年くらいに大きい分岐点があったんだよね。

 周りの農家に、作るのがうまい人、売るのが上手い人とか、困った時に相談できる先輩方がいるのね。で、はじめた頃に、商売がうまい先輩に「りんごは売っちゃダメだ」って言われたんだ。理由を聞いたら、自分の作りたいりんごを作らなくても、商売がうまければ売れちゃうからって。「自分が納得していないりんごでもお金に変わっちゃうから、まずは作る方に専念した方がいい」って言われて。そこから、まずは自分が納得できるものを作ろうとしてきたんだけど、10年目くらいに、自分がある程度は納得できるものが作れるようになった。

 それに伴ってお客さんもだんだん増えてきて。最初は同級生の親御さんに買ってもらったりとかから始まったんだけど、送った先からまた買ってもらえたり、追加で買ってもらえたり。それで毎年、栽培面積を少しずつ増やしてきたんだけど、それでも断らなければならないくらい注文が増えた。

 それで去年、一昨年くらいに「自分一人でやる範疇を超えたな」って。それと同時に、自分が納得できるりんごに近づいてきたっていう実感もあった。そこで、お客さんを断り続けて、自分のできる範囲で自分が納得できるりんごを作り続けるのか、誰か一緒にやってくれるひとを雇って、栽培面積を増やしていくのかっていう分岐点があった。

A:それはどっちを選んだの?

S:後者の、拡張する方向。

A:おいしいものを増やすのはいいことだね。

S:前者だと、結局は自己満足の世界になっちゃうのかなって。田舎で天狗になってても、あんまり意味ないなって。自分ができる範囲内でやるのもありだと思うんだけど、自分のりんごはうまいぜって言うのに、欲しいお客さんにりんごがないっていうのは、自己満足なんじゃないかって。おいしかったって言ってくれるお客さんには応えていきたい。


台風でりんごが落ちたときも

「このときのために、いいジュースをつくる準備をしておきました!」

と言えるような準備をしておきたい。


A:仕事っていろんな理由があるし、どんな理由でも家族を食わしてるひとって尊敬してるし、好きな仕事しかしちゃいけないわけじゃないし。そういういろんなものが見えて来ればいいなと思ってインタビューしてるんだけど。

S:すごくボヤッとしてるでしょう(笑)。でも、すごい情熱をもって、俺はりんご作りが好きだぜってやっているわけでもないけど、作るからにはいいものをって気持ちはある。

A:それは伝わってくるし、食べたらわかるよ。

S:食べたらわかるっていうの好きだな。

A:いちばんかっこいいやつじゃん。

S:あはは(笑)。まあ、極端な話をすれば、何が性に合っているかっていうと、寝たいなと思ったら寝てもいいんだよね。1年に1回しか採れないんだけど、大きなミスも起きにくいわけだから、今日寝たいなと思えば寝てもいいわけ。

A:今日、話を聞いててびっくりしてるのは、普通の農家の人たちって、健悟の逆のことばっかり言ってる気がするの。大変とか、自然との付き合いだから一瞬でダメになるリスクもあるっていう話が多いから、今日はとても新鮮なんだよ。

S:リスクは確かにあって、台風で採れなかったときもあったけど、その天候ですら自然の循環の1つと考えれば、そんなにひどい目を見ることはないんじゃないかな。

A:今の言葉は、農家を目指そうか迷ってるひとにとっては新しい切り口だと思うよ。自然て懐が広いから、ちょっと自分が何かしたくらいじゃ影響ないっていう。そのちょっとしたところの影響が大きいって語る農家のひとが多いような気がするから。

S:何もしなければしないほうがいいと思う。

A:金言かもしれないね。

S:もしかしたら来年台風がきて全部落ちちゃうかもだけど、今のところ大丈夫だし。最近はりんごジュースの人気が出てきているけど、ジュースを作り出したのも、台風で落ちちゃったときに「ジュースにしたんでこれで勘弁してください」みたいなことは言いたくないって気持ちがあったからなんだよね。仕方なく搾って作ったみたいなことは言いたくなくて。台風で落ちちゃったときにも「待ってました。このときのために、こんなにいいジュースを作れる準備しておきました」って言いたいじゃん。

A:そういうことを考えて始めてるんだね。

S:俺が気づいてないだけで、実はわりと大変なのかもね(笑)。

A:最終的にはどうなりたいとかある?

S:近い目標を毎日コツコツやるしかないかなって思ってやってるから、最終的な目標を考えたことはないんだけど……。自分が選んだ農業に、若い人が入ってきてないじゃん。お付き合いある人が若くて60代くらいで、80代の方々も現役で働いてたり。今は農家の平均年齢が75歳っていうんだよね。15年前と比べるとせっぱつまってきてるんだよ。それだけ後継者がいないわけ。この辺の畑は、疎開してきた人たちが開梱して畑にして、一生懸命農地を守ってきたんだよね。そういう畑を持っていても、息子はいい大学に行かせていい会社に勤めさせた方がいいっていう。時代がそうだからしょうがないのかもしれないけど、そうなったのは農家にお金が入ってこなかったからだと思うんだ。高度成長期と比べると時代は変わってきたなと思うけど、長男が二十歳になった頃に、選択肢の1つとして、農家も入るようにしたいかな。お金の面もやりがいの面も。時代も合ってると思うし、頑張ればできるでしょう。だから今のうちに頑張っておこうかなって。